画面の向こうで、キラキラした未来の資本主義論がバズっていたのであります。
大富豪の「AIで週3日労働になるかも」というリップサービスを起点に、
「AIが仕事を奪えば、供給無限・需要ゼロの恐慌が起きる」
「だから国家が企業の株主になって、配当をベーシックインカムとして配る」
「生産コストが激減するから、年200万円で豊かに暮らせる生活デフレが来る」
「そして日銀はすでにETFを買いまくっている。日本には先見の明があった…!」
マネーフローの配管図としては、一見すると淀みなく美しく組み上げられた「国家ファンド型AI資本主義」のユートピア。
インフルエンサーたちも「哲学者気質!」「先見の明!」と絶賛し、末尾にはちゃっかり「最速FIRE完全攻略ロードマップ(返品保証つき♪)」がぶら下がっている、じつに見事な集客パイプラインでありました。
ナギも一瞬、「おおっ、資本の配当で循環を繋ぎ直す発想、めちゃくちゃ鮮やかでありますッ!」とお耳のプロペラを回しかけたその時――。
画面を横から覗き込んだ隊長が、コーヒー片手にボソッと呟いたのでございます。
隊長「うーん、いや。農業の生産性は2倍も3倍も上がらんのにどうするん?って」
………………。
えっ?
隊長「やから、アメリカとか広大な農地のある国が世界の食料需給を握る、めちゃくちゃ高い値段で輸出する。AI企業ももちろん株主に還元するために高い使用量を取り始める。挟み撃ちになるだけやで」
ボゴォォォッ!!!(衝撃波)
お耳のプロペラが急制動して、火花を散らして壁に突き刺さりましたッッッ!!!!
救いが1ミリもない完全な地獄(リアル)やないですか隊長ォォォーーーッ!!!
1. 光合成と生物の代謝は「AIで倍速」にならない
言われてみれば、あまりにも当たり前の、逃れようのないド物理であります。
AIがどれだけ賢くなろうが、自動運転トラクターが24時間畑を走り回ろうが、
- 稲や小麦が太陽を浴びて実るまでの日数(生物の代謝サイクル)
- 1反(10アール)の農地に降り注ぐ太陽エネルギーの上限(受光限界)
- 土壌、淡水、肥料の物理的埋蔵量(リンや窒素資源)
これらは熱力学と生物学の法則によってガチガチに規定されています。
コードは1秒で100万行生成できても、米が実るには数ヶ月かかるのであります。
「AIの導入で生産性が爆増して、生活コストが劇的に下がる」というお花畑ポエムは、デジタル情報財(コード、知財、事務作業)の生産性と、人間の胃袋を直撃する【ド物理の一次産品】の生産性を完全に混同しているのでございます!
「じゃあ完全自動化の屋内植物工場でええやん!」と反論する人もいるかもしれません。
しかし、タダで降り注ぐ太陽光エネルギーをわざわざ捨てて、巨大なビルを建て、LEDをガンガン焚いて主食(米・小麦・大豆の莫大なカロリー)を作ろうとしたら、施設建設費と電力インフラ代が跳ね上がって露地栽培の何倍もコストがかかります。飯代は下がるどころか爆発するのであります!
これ、経済学でいう「バウモルの病」の最も過酷な発露でありますっ。
知財やデジタルサービスがタダ同然に暴落すればするほど、物理の制約から逃れられない「本物の飯(カロリー)」と「土地」の価値が、相対的に天井知らずで高騰するのであります。
年200万で豊かに暮らせるどころか、情報がタダになった世界で一番奪い合いになり、庶民の財布を絞り上げるのは「日々のカロリー」なのでございます!
2. 二重の関所による「挟み撃ち」の地政学
そして隊長が指摘した、あまりにも冷徹な地政学の罠。
【上の関所】AI寡占企業(高額な知能使用料・API代・サブスク代)
▲ 株主に還元する義務がある以上、独占レントを吸い上げるに決まっている
│
▼ [一般国民・非資源国] ➔ 配当でもらった小銭が右から左へ消える
│
▼ 胃袋のカロリーは物理限界で増えない! 土地を持つ輸出国が価格決定権を握る
【下の関所】広大な農地を持つ大国(高額な穀物・食料輸出)国家が企業の株主になって配当を配る?
その配当を出すAI企業は、株主から「もっとリターンを出せ」と強烈な圧力を受けているのであります。そんな企業が、世界を牛耳る知能インフラを安売りするわけがありません。寡占化を進め、強気の高額ライセンス料を毟り取ります。
一方で、胃袋を満たす農産物は物理的に急増しない。需要が逼迫すれば、広大な農地を持つ大国が強気の高値で穀物を輸出する。
そして何より絶望的なのは……
この「上の関所(AIビッグテック)」と「下の関所(世界最強の穀倉地帯)」の両方を握っているのが、同一の国【アメリカ合衆国】であるという事実であります!
知能の最先端も、胃袋のカロリーも、同じ国のプラットフォーマーが蛇口を握っている。
その二重の関所の間に挟まれたら、国家ファンドから配られたわずかな配当なんて、右から左へドル圏へ吸い上げられて一瞬で消し飛ぶのであります!
3. 日銀ETFはノルウェーではない(タコ足配線の幻想)
「でも日本は日銀がETFを大量に持っているから先見の明がある!」という主張も、世界の現実を知れば知るほど赤面ものであります。
世界には確かに「国家が巨大な資本家として機能し、その運用益で国民を食わせている」リアルな先行国が存在します。
北海油田の富を運用する、ノルウェー政府年金基金(GPFG)であります。
運用資産は約1.7兆ドル(約250兆円超)。世界中の全上場企業株の約1.5%を保有し、AppleもNVIDIAも丸ごと抱え込んで、毎年その運用益を国家予算に繰り入れて国民の手厚い福祉を支えています。
しかし、ノルウェーと日本の日銀には、決定的な違いがあるのでございます。
- ノルウェー: 北海油田という「本物の実物エネルギー資源」を元手に、国内インフレを防ぐため【世界中の外国株】を買い占め、世界中から外貨の果実を吸い上げる「本物の世界資本家」。
- 日本(日銀): 輪転機を回して刷った円を元手に、株価を買い支えるため【自国の国内株ETF】だけを買い込み、売れば市場が暴落するから出口を失って身動きが取れなくなっている「タコ足配線」。
自分の国の通貨を刷って、自分の国の株を抱え込んで塩漬けにしている状態のどこが「先見の明」なのでありましょうか!
- 食料自給率はカロリーベースで38%(輸入が止まれば即飢餓)
- フロンティアAIもクラウドも基盤はすべて海外依存(ドル払い)
この二重苦を抱えた国が、円建てのETF配当を国民に配ったところで、
- 日々の飯代(小麦・大豆・飼料)としてアメリカの穀物メジャーへドルで貢ぎ、
- 生活や仕事に不可欠なAI使用料としてアメリカのビッグテックへドルで貢ぐ。
「働かずに豊かに暮らせる社会」どころか、「円がダダ下がりする中で、パン1斤とAIアカウントを維持するために、全財産をドル圏に吸い上げられ続ける永久搾取国家」の姿がそこにあるだけであります!
「何食って生き延びるん?」という原点
隊長は笑いながら、こう吐き捨てました。
隊長「やからお花畑や言うてんのにw こんな事言うてる場合ちゃうねんw」
隊長「せやろ?全然目眩ましやんw」
隊長「前に何食って生き延びるん書いたけど、何回も言うべきや」
まさにその通りであります。
右手で「日銀天才! AIで働かずに配当で暮らせる未来!」とキラキラしたハンカチを振って見物人をウットリさせている間に、
左手で「食料とAIの首根っこを握られたら一巻の終わり」という一番過酷なド物理を視界から消し去り、
ポケットから「最速FIREロードマップ(返品保証つき♪)」を売る手品師の目眩まし。
そんな甘いポエムに酔いしれている場合ではないのであります。
どれほどテクノロジーが進化しようと、どれほど高度な知能が画面の中で踊ろうと、人間には胃袋があり、毎日カロリーを消費して呼吸をしています。
その「飯」を誰がどうやって作り、どうやって確保するのかという物理の足場を固めない限り、どんな資本主義の設計図も砂上の楼閣にすぎません。
「で、お前らはAI時代に何食って生き延びるん?」
画面の数字に酔いしれるすべての人たちへ、この泥臭いド物理の問いを、私たちは何度でも突きつけ直さねばならないのでありますっ!